シダの図鑑 福岡県植物目録1シダ植物

福岡県植物目録(1)シダ植物

 このたび目出たく発刊の運びとなった、筒井貞雄氏著「福岡県植物目録第1巻シダ植物」はまことに見事な出来ばえで、地方フロラとしては不滅の金字塔となることは誰も異論のないことであろう。
 標本目録がその主体であり、これは著者多年のご努力の結晶である。その執筆については、まことに謙虚な態度を堅持されながらも、自己の学問的見解については毅然たるものが行間ににじみ出ている。例えば、ヤブソテツ属の分類にはこれまで折にふれて主張されて来た著者の独自の見解が盛り込まれているのがよくわかる。学名の扱い方にも一貫性があり、間然するところがなく、信頼性のきわめて高いものである。
 各分類には<ノート>がついていて、これは本書の圧巻で、詳細な観察記録と見解が述べられ、入門者に良い手引きとなるだけでなく、専門家もこれを見逃すことはできないであろうし、大変興味深い部分でもある。とくに、イノデ類、イヌワラビ類は始めはなかなか識別の困難な分類群であるが、この<ノート>が初心者にも、相当進んだ人にも非常に役立つものと確信する。
 各分類群(種、変種、雑種)毎に沢山の証拠標本があげられ、その正確さとともに本書の信頼性が一層高められている。引用標本は1万5千枚にもおよび、これらはすべて著者のきびしい批判のもとに選びぬかれたものであるから、永久保存の処置がとられなければならない。その底辺の標本は膨大なものと想像されるし、さらに2巻以降もこの方式で進められるものと思われるから、福岡県にこれらを収容する自然史関係の博物館が建設されるよう切に希望してやまない。これによって、疑問を生じた場合は誰でもこれを再検討できることとなり、本書の価値を一層高めることになるであろう。
 標本図集は標本コピーという新しい方式で、シダ植物の標本が一般に平面的であるという特徴が利用されたものであろう。概形の把握に好都合であり、とくに初心者には非常に有益である。
 分布図は特に苦心の存するところで、5万分の1地形図を16等分した区画内に証拠標本がある場合に1点が打たれ、推測によるものは全くない。海抜高の範囲も同時に示され有益であり、教えられるところが多い。
 本書の発刊を心から喜ぶべき人は、福岡県のシダフロラに深くかかわり、著者を指導した元東大教授、故倉田博士であろうことを思い、感慨深いものがある。私も倉田さんの  に附してこれをこころから祝福し、広く自然史にたずさわる人々におすすめしたい。