シダの図鑑 福岡県植物目録1シダ植物

福岡県植物目録(1)シダ植物

まえがき

 シダの豊産国である日本には、どのようなシダ植物が分布しているのかは、明らかになっている。北海道・本州・四国・九州・沖縄・小笠原には、どのようなシダが分類しているかも、明らかになっている。鹿児島から北海道に至る各都道府県には、どのようなシダが分布しているかも、もちろん既に明らかになっている。
 本書は、日本列島の一部分に過ぎない福岡県において、どのようなシダが、どのような範囲で、どのような密度で、どのような姿およびどのような変異を表現しながら分布、自生しているのか、1922(大正11)年から1987(昭和62)年の66年間に採集された1万点以上の標本と現在までのシダ研究の成果に基いて明らかにしようと試みたものである。
 福岡県における近代的な意味でのシダ植物の標本採集は、明治年間(1868~1912)に始まったと思われるが、大学などでの標本室に保存されているシダ植物の標本が殆どない現状では、先人の足跡を復元することは不可能に近い。したがって、時代は下って1922(大正11)年、九州帝国大学農学部植物学教室に助手として赴任してきた竹内亮(1894~1982)の採集が、福岡県におけるシダ植物標本の本格的な収集の  ということができる。続いて昭和時代に入ると、1929(昭和4)年、東京帝国大学理学部大学院(植物生理学専攻)を病気のため中途退学し、現在の八女市吉田に帰郷した中島一男(1904~1953)が県内で収集を開始し、前後して1931(昭和6)年、九州帝国大学農学部林学科を卒業して助手となった初島住彦(1906~)が、県内の各地で採集を始めていたのが、先駆的活動である。
 これら三先達の内、専攻が林学であった竹内・初島と比較して、中島はシダ植物により深い関心を抱いていたらしく、ツクシヤブソテツ・ヒノタニシダ2新種の発見者および基準標本の採集者として、その名前が永久に残ることになった。このほかに中島は県内ではコウラカナワラビ・ツクシイヌワラビ・イズヤブソテツ・アカメイノデ・ツヤナシイノデモドキ・アイヌリトラノオ、県外ではクマガワイノモトソウ・アイコハチジョウシダ・ハガクレカナワラビ・ワカナシダなど、その2、30年後に新種あるいは日本新記録として発表されることになるシダを、既に1930年代に採集していた事実は注目されるところである。
 しかしながら、これら三先達の福岡県における採集活動は、1939年竹内亮博士の満州国大陸科学院への転出、1942年中島一男の朝鮮水原高等農林学校への転出、1943年初島住彦博士のジャワのボゴール植物園への転任という諸事情と太平洋戦争のために、残念ながら10数年という短期間で終止符を打たざるを得なかった。