シダの図鑑 福岡県植物目録1シダ植物

福岡県植物目録(1)シダ植物

 バイオテクノロジーの進歩に伴って、すべての野生植物の遺伝子が、資源の開発にとって有用となる可能性を持つことになってきた。しかも、地球人口が50億をこえた今、飢えの危険はすぐ近くまで迫っている。そして、一方では、人間生活の多様化に伴う開発によって、多くの野生種が絶滅の危機に追いやられようとしている。有用であるかどうかを推定するための基礎的な研究もなされないままに。
 筒井貞雄氏による福岡県のシダ植物の目録は、そんな危惧を吹き飛ばすものであり、現在の博物学の輝かしい成果であるといえる。福岡県に産するすべてのシダ植物について、種ごとに適切なノートが与えられ、採集され各種ごとの影絵と分布図があり、カラー32葉、生態写真39葉、標本写真7葉、線画によるページ大の図16葉などが、個々の種についての県内の所在情報を詳細に記録している。すべて足で歩き、目で確かめた記録であり、それを標本にもとづいて実証されたものである。伺うところによると、15,317点の収蔵標本は、すべて保存袋に収納され、永久保存の態勢は整えられている由である。
 日本のフロラは、各地で地道に調査を続けておられる方々の努力によって解明されてきた。今では、多くの府県で、詳細な植物目録の編纂が可能となってきた。そして、現時点で可能な理想像といえる目録がここに1つ出現したのである。この種の正確で実証的な力作が、もし地球上のすべての地域で整えられていったら、遺伝子資源の所在情報は完全であるといえるだろう。せめて、日本くらいは、各府県でこのような情報が整う方向で調査研究が進むことを期待したいし、その意味でも1つのモデルとして、この種のテーマに関心をもつすべての人にお勧めしたい。
 ある意味では社会的に緊急な要請であるこの種の調査研究が、植物を愛することに生き甲斐をもっておられる人達の情熱に支えられて進められているのを見る時、複雑な気持ちになる。科学の進歩は科学的好奇心のとりこになった人々によって進んできた。その成果によって豊かさを与えられた人々は、その意味も知らず、努力を重ねてきた人々に感謝する術も知らずにいる。この1冊の書に盛られたエネルギーの大きさを考えたとき、そのことに触れずに通り過ぎることはできない。このエネルギーが、さらに大きなエネルギーを呼び込むきっかけとなることを期待したい。